生体デザインの多様性と普遍性を解き明かす研究は、生命科学の根幹を担っています。発生過程で細胞集団が組織・器官としての機能を創発する過程では、細胞の運命・形・機能が規則的なパターンを形成する「自律的秩序化」が関わります。近年、この自律的秩序化には、細胞が外環境からの力作用を感知・応答する現象が、重要な働きを担うことが示唆されました。生体内の力作用には、「細胞由来の力」と「細胞外基質や管腔など細胞外の“場”由来の力」が関与し、両者は相互作用してマクロスケールで不均一な空間分布を示します。更に、発生で起こる細胞の分化が、生体内力作用に一見不規則な継時変動を引き起こします。これらの複合的かつ動的な力学情報を開示し、力の生理的意義を解明することで、化学シグナルを中心に構築された従来の発生プログラムに概念的転換が期待されます。
本領域研究では、「力による多細胞システムの自律的秩序化」を司る基盤原理の解明を目指します。力作用の短時間に長距離伝搬するユニークな時空間特性が、生体内の化学シグナル伝達をマクロスケールで調和する仕組みを解明することで、細胞集団で起こる自律的秩序化を司る法則を突き止めます。この研究が、発生現象を「マクロスケールで進行する力学作用(力と形態)と化学反応(運命と機能)のフィードバックによる細胞集団秩序の創発」と新しく定義することで、生体デザインの原理にパラダイムシフトを導出します。本領域研究を介して、発生力学と生体計測解析で国際的に活躍する研究者が連携する異分野融合研究拠点を確立し、生命科学と医療分野の発展を促進する新規学問の構築を目指します。
領域研究代表者からのメッセージ
生物が卵から個体に至る過程では、様々な細胞がそれぞれの運命に従うことで、組織固有の形と機能を獲得します。この発生過程は、これまで細胞内外分子の化学反応アンサンブルと解釈されてきましたが、細胞集団の運命・形・機能がマクロスケールで自律的に調和する「自己組織化」の理解は未だ遅れています。本領域研究では、既存の発生概念に欠ける「力作用による生体秩序化の制御」の解明を目標とし、発生現象を「力学作用と化学反応のフィードバックによる細胞集団秩序の創発」と新たに定義することで、自己組織化の原理を包括的に解き明かします。細胞集団が、発生過程の「時間軸―空間軸―力作用軸」で制御され、力作用を介して自律的に形質転換する法則を理解することで、生体設計のパラダイムシフト導出を目指します。
本領域研究では、発生力学と生体計測解析の第一線で活躍する研究者が連携し、多国籍の研究者による「英語コミュニケーションを基盤とした体制」を生かして、世界をリードする国際的な異分野融合研究拠点を開拓します。発生学・細胞生物学・生物物理学・生体工学・マテリアル科学・数理科学・情報処理学など複合的研究分野の融合によって「革新的な学問」を確立することで、生命の形と機能をデザインする原理という大きな謎の解明に迫ります。
北海道大学遺伝子病制御研究所 教授
茂木 文夫